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東京高等裁判所 昭和37年(ネ)2527号 判決 1968年5月29日

控訴人 鈴木サト 外一一名

被控訴人 高柴さち

主文

本件控訴を棄却する。

但し、原判決主文第七行目に「同藤森は金一二、〇〇〇円」とあるのは「同藤盛は金八、〇〇〇円」と更正する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

一、控訴代理人は、本案前「原判決を取消す。被控訴人の請求を却下する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を、本案につき「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決をそれぞれ求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

二、当事者双方は事実関係につき次のとおり陳述した。

(一)  被控訴人

(1)  請求原因

(イ) 被控訴人及び控訴人らは別紙<省略>無尽講目録(A)(B)記載の各無尽講の講員であり、被控訴人は右各無尽の講元として講の管理に当つているものである。

(ロ) 右各無尽講には規約がなく、一般慣習により運営されているのであるが、右慣習によると、本件各講はいわゆる親取り無尽であつて、親は抽せんによらずして第一回の掛金全額を落札することができる。講元は、講員を募つて一定口数を獲得した上、開催日、場所、講金額等を定め、会計その他一切の運営にあたるのであつて、もし、掛金の支払を怠る者があれば、その取立のため裁判上裁判外一切の権限を行使することができる。

(ハ) 本判決添付無尽講目録(A)の無尽(以下単に(A)無尽という。)は、昭和三三年一月二二日を初回として毎月二二日開講であるから、同三五年三月二二日終了すべき筈のところ、途中三回休講したので同年六月二二日終了と予定されていた。然るに、右昭和三五年三月二二日の講会で控訴人らの掛金不払のことから紛議を生じ、当日支払われた掛金全部を集めて抽せんを行わず未落札者に分配した。次いで四月の講会は選挙のため、また、五、六月の講会はいずれも参会者少数のためそれぞれ流会とし、同年七月以降は掛金を集めては落札の方法を用いないで未落札者に平等分配し、これを同三七年三月二二日まで続けたが、その後は掛金も集まらず講会を開いても意味がないので開催しなくなつた。

本判決添付無尽講目録(B)の無尽(以下単に(B)無尽という。)は、昭和三二年一月一三日を初回として毎月一三日開講であるから昭和三四年(原審昭和三五年(ワ)第一三四号事件訴状添付目録中に「昭和三五年」とあるのは誤記と認める。)四月一三日終了すべき筈のところ、途中二回休講したので同年六月一三日終了することになつた後、(A)無尽と類似の経過を辿つて同様開催されなくなつた。

(ニ) (A)無尽の講員は一口三〇〇〇円宛の掛金を各講会毎に支払い、満期まで支払を続けたときは最終講会で金八万一〇〇〇円(金三〇〇〇円宛二七回分に相当する。)を受取ることができるが、中途の講会で入札の方法により「せり金」最高で落札すれば右金八万一〇〇〇円から「せり金」を控除したものを受取ることもでき、後者の場合はその後の講会において毎回金三〇〇〇円宛掛金を支払い、結局最終会までには合計金八万一〇〇〇円を支払う仕組である。

(B)無尽も、講員の一口掛金が二〇〇〇円で、最終講会受取金が金五万六〇〇〇円、落札による受取金が右金五万六〇〇〇円から「せり金」を控除したものであり、落札者が初回から最終会までに支払うべき掛金額は合計金五万六〇〇〇円となるほか、すべて(A)無尽と同様である。

(ホ) 控訴人らは、右(A)(B)の各無尽の一方又は双方に加入し、落札によつて講金を受取りながら掛金を怠つているものであつて、その加入口数、落札日時、掛金支払の月、既払掛金総額、掛金不払回数、未納金額はいずれも別紙講金支払表(A)((A)無尽の分)、(B)((B)無尽の分)記載のとおりである。

(ヘ) 講元は、掛金を支払わない講員があつても立替払をしない慣習であつて、(A)(B)各無尽が前記のような状態に陥つた以上、掛金未払の講員からこれを取立てた上未落札講員に対しこれを分配すべき義務があるので、控訴人らに対し各自前記未納金額及びこれに対する昭和三五年六月二三日以降各完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだ。

(2)  控訴人の本案前の答弁に対する陳述

本件各無尽講が組合類似の形態を有するものであることは認めるが、管理人たる講元は被控訴人主張の如き権限を慣習上有するものである。

なお、右各無尽講の目的たる事業は成功不能でなく、従つて右各無尽講は未だ解散していない。

(二)  控訴人

(1)本案前の答弁

本件各無尽は、講員が無尽の方法により共同で利殖を計る目的で結んだ組合契約の性質を有するものである。

然るに、被控訴人の主張自体から明らかなように、満会に至らない昭和三四年三月頃から多数の講員が掛金を怠ることになつて、目的たる事業は成功不能となるに至つたので民法第六八二条により当然右無尽は解散となり、清算手続に入つたものである。

そうであるとすれば、本件の如き掛金支払の請求の訴は講員全部が共同原告となるか、法定の手続により選任された清算人が原告となつて提起すべきものであり、被控訴人は本件の原告たるべき適格を有しない。よつて、本訴は不適法として却下せらるべきである。

(2)  本案の答弁

(イ) 被控訴人主張の請求原因(イ)の事実は、これを認める。

(ロ) 講元の権限に関する被控訴人の主張はすべて争う。

(ハ) (A)無尽は昭和三二年一月二二日に始まり同三四年三月二二日終了したものであつて、被控訴人主張のように同三五年六月二二日まで続いたものではない。講会は未落札者の同意なくして開催を取り止めることは許されないこと判例である。また、(B)無尽は昭和三二年度、同三三年度において各十二回宛講会を開いたが、同三四年度には二月、三月、六月に各一回宛計三回開かれただけである。

(ニ) 控訴人らが本件各無尽に被控訴人主張の各口数加入しその主張の如く落札したが、被控訴人主張の如き掛金の支払をしていないことはいずれもこれを認める。

三、証拠<省略>

理由

一、被控訴人の当事者適格について。

被控訴人が別紙無尽講目録(A)(B)記載の各無尽講の講員であり、これら無尽の講元として講の管理に当つているものであることは当事者間に争いがない。

そして、原審(第二回)並に当審における被控訴本人高柴さち尋問の結果によると、本件各無尽講は規約の明記されたものはないけれども、組合類似の性質を有する無尽講であつて、当初講員の合意により講元が掛金の取立につき裁判上裁判外一切の権限を有するものとされていることを認めるに十分である。

控訴人らは、右各無尽は多数講員の掛金不払により目的到達不能となつて解散したものであるから、以後掛金の取立は、講員全員もしくは清算人においてこれを行うべく、講元はその権限を有しない旨抗争する。しかし、

多数講員が掛金の支払をしないからといつて、それだけで講の目的到達が確定的に不能となるものではないのみならず、仮りに確定的に不能となつたとしても、無尽講の特質から見て民法第六八五条は特段の事由がない限り準用されず、講元は講員の信託にもとづく掛金取立の権能を当然には失わないものと解するのが相当であるから、

被控訴人に右権能がないとする控訴人らの主張は採用できない。

それ故、本件各無尽の目的到達が不能となつたか否かの点の判断をするまでもなく、被控訴人は本件各無尽講の掛金取立のための本訴につき原告たる適格を有するものというべきである。

二、本案について。

(一)  控訴人らが別紙無尽講目録(A)(B)記載の各無尽講の講員であること、その加入口数、落札日時及び口数、未払掛金がいずれも別紙講金支払表(A)((A)無尽分)、(B)((B)無尽分)記載のとおりであることは、いずれも控訴人らの認めて争わないところである。

(二)  そうして、被控訴人が右各無尽講の講元として掛金の取立につき裁判上裁判外一切の権限を有することは前説示のとおりであるから、控訴人らは被控訴人に対し右未払掛金全額及びこれに対する各最終講会予定日後である昭和三五年六月二三日以降完済まで民事法定利率である年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるものといわなければならない。

(三)  もつとも、無尽掛金は通常現実に講会の開催される都度これを支払えば足りるものであつて、単に講会開催予定日が到来したというだけでは遅滞に陥ることはないものと解すべきであるけれども、原審並に当審における被控訴本人高柴さち尋問の結果及びこれによつて真正に成立したと認める甲第一号証の一、二、三、同第二号証の一、二並に当審証人柳田ていの証言の一部をそう合すると、本件(A)(B)両無尽とも昭和三四年二月頃までは一応順調に進行したが、その後落札者にして掛金の支払を怠るものが多くなつて、結局(A)無尽は昭和三四年六月二二日の第一八回まで、(B)無尽は昭和三四年二月二二日の第二五回まで(本来毎月一三日開催のところ、第二二回以降毎月二二日開催した。)それぞれ講会を開いたに止まり、その後は落札者から便宜掛金を集金し、集金し得たものを未落札者に平等分配するに止めるほかなきに至つたことが認められるのであつて、既にかかる事態に立ち到つた以上は、落札者の掛金支払債務は、当該無尽の最終講会予定日の経過と共に履行遅滞に陥るものと解するのが相当である。

(四)  よつて、控訴人らに対し前記(二)記載の未払掛金及び遅延損害金の支払を求める被控訴人の本訴請求は正当としてこれを認容すべく、これと同旨にいでた原判決(但し原判決主文第七行目に「同藤森は金一二、〇〇〇円」とあるのは、「同藤盛は金八〇〇〇円」の誤りにつき更正する。)は相当であるから、民事訴訟法第三八四条第九五条第九三条第八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡部行男 川添利起 坂井芳雄)

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